追い続けた記者の証言
Description:... 「日本の悲願」地震予知がたどった道を克明に描く新たな「地震発生の可能性の高まり」への疑問 地震国日本の悲願とも言える地震予知。それがさまよい続けているように思えて残念でならない。最初はマグニチュード(M)8クラスの東海地震なら予知できるとされ、予知と防災を結び付けようと大規模地震対策特別措置法(大震法)ができた。ところが、そのうち地震予知の難しさがクローズアップされ、阪神、東日本の両大震災を経て「地震予知は一般的に困難」という報告書が専門家によってまとまった。 これだけならまだよかったのだが、今度は「大規模地震が発生する可能性の高まり」という考え方が出てきた。東海地震で夢見たような直前予知はできないけれども、東海地震を含め南海トラフ沿いで起こる大規模地震に関して「どうもあやしいから警戒を」といった程度の情報なら出せそうだとなったのだ。 どんな場合なのか。代表的なのは、例えば東海地震の発生によって紀伊半島や四国など南海トラフ沿いの西側が割れ残った場合の「半割れケース」。専門家による評価検討会がこのケースだと判断すると、気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表する。津波の危険性の高い地域では住民が1週間程度避難する。でも何かヘンだ。そう、南海トラフ地震の一つが現実に起こってしまい、続いて起こりそうな巨大地震に警戒を呼び掛けるというのだから、臨時情報のありがたみはあまりない。 残る2つのケースは、南海トラフ周辺で一回り小さなM7クラスの地震が発生する「一部割れケース」と、海のプレート(岩板)と陸のプレートがぶつかり合うプレート境界がゆっくりとすべる現象に異常が観測される「ゆっくりすべりケース」だ。どちらも切迫性があまりないから、気象庁は一段低い南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を出す。同庁が東海地震の予知で焦点を合わせていたのはゆっくりすべりケースだが、これをキャッチできても大規模地震の発生時期などは何も言えないとして脇役に回された。 筆者は40年以上前に東海地震説が提唱されたころからずっと地震予知問題を見詰め続けてきた。地震予知の可能性を信じ、東海地震の予知も有望だと考えてきた。その意味で反省すべき点は多い、一方でここにきて内閣府(防災担当)などが「地震発生の可能性の高まり」を持ち出し、地震予知をますます混迷化させていることが理解できない。どうして、こんなことになってしまったのか解き明かそうと考えたのが本書だ。政府が設けた会議では、半割れケースが出てきたことの是非や、役立たなくなった大震法をどうするのかについての議論がなぜかほとんどなかった。 地震予知と深くかかわった専門家たちのエピソードをできるだけ入れるようにしたほか、国立大学の名誉教授などを含む民間研究者が地震を予知・予測できると称し、それを週刊誌や民放が興味本位で取り上げるという嘆かわしい実態にも迫った。密着取材したジャーナリストが「東海地震の予知」の歩みを克明に描いた報告書になっている。
「日本の悲願」地震予知がたどった道を克明に描く
新たな「地震発生の可能性の高まり」への疑問
地震国日本の悲願とも言える地震予知。それがさまよい続けているように思えて残念でならない。最初はマグニチュード(M)8クラスの東海地震なら予知できるとされ、予知と防災を結び付けようと大規模地震対策特別措置法(大震法)ができた。ところが、そのうち地震予知の難しさがクローズアップされ、阪神、東日本の両大震災を経て「地震予知は一般的に困難」という報告書が専門家によってまとまった。
これだけならまだよかったのだが、今度は「大規模地震が発生する可能性の高まり」という考え方が出てきた。東海地震で夢見たような直前予知はできないけれども、東海地震を含め南海トラフ沿いで起こる大規模地震に関して「どうもあやしいから警戒を」といった程度の情報なら出せそうだとなったのだ。
どんな場合なのか。代表的なのは、例えば東海地震の発生によって紀伊半島や四国など南海トラフ沿いの西側が割れ残った場合の「半割れケース」。専門家による評価検討会がこのケースだと判断すると、気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表する。津波の危険性の高い地域では住民が1週間程度避難する。でも何かヘンだ。そう、南海トラフ地震の一つが現実に起こってしまい、続いて起こりそうな巨大地震に警戒を呼び掛けるというのだから、臨時情報のありがたみはあまりない。
残る2つのケースは、南海トラフ周辺で一回り小さなM7クラスの地震が発生する「一部割れケース」と、海のプレート(岩板)と陸のプレートがぶつかり合うプレート境界がゆっくりとすべる現象に異常が観測される「ゆっくりすべりケース」だ。どちらも切迫性があまりないから、気象庁は一段低い南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を出す。同庁が東海地震の予知で焦点を合わせていたのはゆっくりすべりケースだが、これをキャッチできても大規模地震の発生時期などは何も言えないとして脇役に回された。
筆者は40年以上前に東海地震説が提唱されたころからずっと地震予知問題を見詰め続けてきた。地震予知の可能性を信じ、東海地震の予知も有望だと考えてきた。その意味で反省すべき点は多い、一方でここにきて内閣府(防災担当)などが「地震発生の可能性の高まり」を持ち出し、地震予知をますます混迷化させていることが理解できない。どうして、こんなことになってしまったのか解き明かそうと考えたのが本書だ。政府が設けた会議では、半割れケースが出てきたことの是非や、役立たなくなった大震法をどうするのかについての議論がなぜかほとんどなかった。
地震予知と深くかかわった専門家たちのエピソードをできるだけ入れるようにしたほか、国立大学の名誉教授などを含む民間研究者が地震を予知・予測できると称し、それを週刊誌や民放が興味本位で取り上げるという嘆かわしい実態にも迫った。密着取材したジャーナリストが「東海地震の予知」の歩みを克明に描いた報告書になっている。
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